税理士 本橋裕央のブログ

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遺産分割⑤(相続放棄2)

相続セミナー開催まで、1週間となりました。昨日、セミナーを共催する北村司法書士と模擬講義の通しをしてみましたが、とても良い講義が出来そうです。無料相談の受付は、前日まで行う予定ですので、是非、いらして下さい。

さて、今回は北村司法書士による5回目の記事となります。前回に続き、「相続放棄」の実践編を具体例から見てゆきます。

相続放棄の条件として、「自己のために相続開始があったことを知った日から3か月以内に申述しなければならない」のは、前回説明したとおりです。
この「自己のために相続開始があったことを知った日」とは、どのような日を意味するのでしょうか。次のような事例から、検討してみたいと思います。

ある日突然、消費者金融から私(長女)のもとに、半年前に亡くなった父方の叔父の借金についての督促状が届きました。私の両親は既に他界しており、子どもは私一人だけです。父の両親(祖父母)も亡くなっております。父の兄弟は叔父のみで、叔父に子どもはなく、叔父の妻は叔父より先に亡くなっております。

この場合、叔父が亡くなってから半年も経過しているため、私は叔父の借金を返済しなければならないのでしょうか。


         祖父   ------------  祖母
       (既に他界)      |     (既に他界)
                     | 
              -------------------
             |                |
       母----------父     叔父-------叔父の妻
    (既に他界)  | (既に他界) (既に他界) (既に他界)
              |
            私
          (長 女)


この場合、「自己のために相続開始があったことを知った日」について、2とおりの解釈が成り立ちます。

1つめの解釈として、督促状が届くまで長女が叔父の相続人であることを知らなかったという場合です。
今回のケースでは、叔父の相続につき、第1順位の子どもがいなく、第2順位の両親、第3順位の兄弟がともに先に亡くなっているため、相続人がいないにようにも思えます。しかしながら、民法には「代襲相続」という規定があり、被相続人より兄弟が先に亡くなっている場合には、その兄弟の子ども(甥・姪)が相続することになるのです。
長女が代襲相続を知らなければ、督促状が届いた時に初めて叔父の相続人であることを知ることになるので、督促状が届いた日から3か月以内に申述すれば、相続放棄が認められる可能性があります。

2つめの解釈として、長女が叔父の相続人であることは知っていても、叔父に借金があることを知らなかったという場合です。
この場合は、最高裁の判例により、3か月の起算日を、「自己のために相続開始があったことを知った日」ではなく、「相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識できる時」とすることができるのです。
少し難しい表現ですが、長女が叔父の相続財産が全く存在しないと信じることについての正当な理由がある場合には、長女が督促状を受け取った時から3か月以内であれば、叔父の相続人であることを知った日から3か月が経過したとしても、相続放棄を申述することが特別に認められるのです。

被相続人が亡くなってから3か月が経過した後に被相続人の借金の督促状が届いたとしても、冷静に対処すれば、事案によっては家庭裁判所に相続放棄を認めてもらうことができるのです。